2023.6.26
認知療法のあれこれ #2
Aaron T. Beck, MDはどんな間違いをおかしたというのでしょうか。
「精神の病理という、あまりにも否定的なものに眼を向けすぎていた。」
そう85歳の父Beckは娘Beckに話し、それを機に途方もない転換を試みた、というのです。
「もっと肯定的なものに重きを置く必要があった。」
2023年5月30日に東京で開催されたワークショップでは、父Beckのコペルニクス的転回の
成果が娘Beckから紹介されました。
回復をめざす認知療法(recovery-oriented cognitive therapy : CT-R)です(図)。
回復とは、それぞれの人が自らの価値観や願望と一致した形で、自らの生活を営めている
「時」のことです。
人生の目的や希望、人との結びつき、安全と快適、能力や自己制御などを高めていくのです。
症状や否定的な認知、不適切な対処法に力点があるのではないのです。
むしろ肯定的な感情や適応的な認知に軸足を移動させるのです。
高齢の父Beckが壮年期から培ってきた旧来の視点に固執することなく、正反対とも言える大きな
方向転換を完遂したことに、強い印象を受けるのは、娘Beckだけに留まらないでしょう。
“You can change!” という期待が輝き始めます。
文責:井上和臣
6月の花〈エーデルワイス〉の花言葉・・・尊い思い出、忍耐
図は下記の文献をもとに作成した。
Aaron T. Beck, Paul Grant, Ellen Inverso, et al.: Recovery-Oriented Cognitive Therapy
for Serious Mental Health Conditions. The Guilford Press, 2020.